夢小説失礼します。


同じ長屋に住む土井半助という男がいる。
彼は長期間長屋を空けるためよく大家さんに怒られているが大家さんはもう少し彼に寄り添ってやるべきだと思う。
忙しそうな彼に代わってドブ掃除をやろうかと提案しても自分がすべきことだからと断るほどの好青年なのだから少し留守にしがちなことぐらい許してやってもいいと思うのだ。
だが留守であることが問題だと言うのであれば俺が半助の家の管理をすれば良いのだ。夫が妻の世話をするのは当然のことなのだから。
そう思い半助の家に入り換気をして掃除をしていると半助の家の隣のおばちゃんと大家さんがやって来てどうしたのかと聞いてきた。大家さんが以前人がいないのはダメだだの換気をしないとだの言っていたため半助の代わりに換気をしているのだと言えば納得してくれたのか去って行った。
ある程度掃除が終わりもしかしたら今日半助が帰ってくるかもしれないと囲炉裏に火をつけ待っていると若い男がやってきた。
「お前が土井先生の家に侵入した不審者か」
不審者？誰のことを言っているのだろう。というかこいつこそ不審者ではないのか。半助に近づく不埒な輩は俺が排除しなければ。と、考えていると不審者に馬乗りになられて刃物を首に突きつけられた。
「な、なんだお前は！こんなことして許されると思っているのか！」
「最近土井先生の周りを嗅ぎ回っていたのはお前だな、死にたくなければ今すぐ土井先生から離れろ」
なんなのだこいつは。こんな凶暴な奴こそ半助の周りに置いておくわけにはいかない。みんなに知らせてとっちめてやる。声をあげようとした瞬間誰かの足音が聞こえた。
「利吉くん、そんなもののために君の手を汚す必要は無い」
半助の声だ。早く危ないやつがいるから逃げて他の人を呼んでくるように知らせなければ。
「君は逃げろ！こいつは危ない奴だ！」
そう叫んだ声に半助はとても不思議そうな声で応える。
「危ない？利吉くんが？まさか、彼はとてもいい子だよ」
くそ、既に半助の懐に入って半助を騙しているのか。なんて卑劣な奴だ。
「そんなことより利吉くん、早くそこから退きなさい。汚いだろう？」
そういえばこいつは草鞋のまま上がっていたな。こんな時にまで床の汚れの方を気にするなんて随分とおっとりしている。だからこそ俺が守ってやらなければならないんだ。
「害は無いから放っておいたけど君がそんなに気になるなら私が処理するから。君の手をこんなものの為に汚させたくないんだ。わかってくれるね？」
言っていることはよく分からないが流石のこの物騒な男も半助の前で凶暴なところを見せるわけにはいかないと思ったのか俺の上から退いて土間に降りる。解放され起き上がって首元を確認しようとした手に違和感を感じる。なんだと思いその手を確認すると棒状の細い銀色の何かが手の甲に刺さっているではないか。
「は？え？は……？い、いたい！痛い！！！！！なんだよ！！！なんだよこれ！！！！」
己の手が何かによって貫かれたことを認識した瞬間に激痛が襲ってきた。半助に助けを求めようと手を伸ばしたら半助が手を振った瞬間今度は反対側の肩にも同じ衝撃が走った。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛！！！！！」
なんで、どうして！何故半助が俺を傷つけるんだ！？
「利吉くんが不安がってるからさ、君、早いところ別の国に行ってくれないか？このまま死ぬか国を出るか。どちらがいい？」
「なん゛、で……」
痛みの中聞こえてくる言葉の内容が理解出来ず何故と問う。
「だから、私の大切な人である利吉くんが君の存在によって不安を感じているからだよ。で、君はどっちがいいのかな？」
「出る！すぐに出るから！死にたくない！」
俺がそう叫ぶと半助はにっこりと微笑んで俺の肩と手から棒を抜く。抜かれた痛みでまた声を上げたがそれを意に介さず止血をした上で家から放り出される。そして俺はそのまま逃げるように最低限の荷物だけまとめて家を出た。人がいるところではまだ追いかけられているかもと思い恐怖から走って走って走り続けて、関所を抜けて人気のない鬱蒼とした森の中でようやく一息つけた。いつもこんなに走ることがないからもう今日は動けないのではないだろうかと思うほどの疲労を感じその場にへたり込む。
あれは優しい人間なんかじゃない、誰であろうとどうでもいいのだ。どうでもいいからこそ誰にでも優しいのだ。今更気づいたところでもう遅い。親戚を頼ってどこか彼に関わることの無い土地で一生を過ごそう。そう決心し宿を探すため立ち上がろうとしたところで後ろから衝撃を感じた。なんだと振り返ろうとしたところで背中から胸を貫く痛みを感じ見てみると刀が刺さっていた。
「このまま生かしておくわけが無いだろう」
その言葉と共に刀が抜かれ体が崩れ落ちる。痛みすら感じずただ熱さだけがあるのに手足はどんどん冷たくなっていく。
「あーあ、君が手を汚す必要はないって言ったのに」
「でも私にやらせてくれる程度にはあなたは私に甘いですよね」
「だってどうしてもやりたそうだったから」
薄れる意識の中お互いを愛し合っているのだということがよくわかる甘く語り合っている2人の声が聞こえる。なんだ、どっちも狂ってるじゃないか。お似合いだよあんたらは。

「処理は手伝ってあげようか？」
「いえ、こんなものをお兄ちゃんに触らせるわけにはいきませんので」
「それは私も同じ気持ちなんだけどなあ」
男は困った笑顔を向ける男にそれでもだと返し遺体の顔を潰していく。四肢をばらし深い穴をいくつか作りばらした遺体を散らして埋める。
満足そうな笑みを浮かべる男の額に口付けをして2人は肩を並べて去って行った。


から始まる利土井ください